免震講座 06
免震建物の地震時性能2
-最近の強震記録に対する免震建物の安全性-

最近の地震では、非常に強い地震動が観測されています。最大加速度は 1G を上回り、最大速度は高層建物の設計で慣用されている 50カインを大きく超えて 100カインレベルの記録さえ得られています。

「大地震に対する安全性」を基本目標とする免震建物は、これらの強い地震動に対しても安全な設計となっているのでしょうか。実際の免震建物を例にあげ、最近の強震記録に対する安全性を検討してみます。

1.対象建物

ここでは都内にある免震建物(Mビル)を取り上げます。

この建物は地下2階地上12階、延床面積約 6,000m2。地下階と地上階の間に配置された13体の LRB免震装置(直径1.0から1.2m) が建物重量約 8,000トンを支えています。

2.検討用強震記録

検討対象とする地震動は、最近の地震で観測された最大速度Vmax=100カイン(=cm/s)レベルの強震記録および本建物での観測記録を拡幅したもの(表1)とします。

表1.検討用入力地震動
地震動記録名 最大応答加速度 (cm/s2) 最大速度 (cm/s)
KOBE-JMA NS (1995) 818.0 90.9
KOBE PI-0m NS (1995) 341.2 90.7
OLIVE VIEW NS (1994) 782.0 112.1
MSB-21 EW (1992) 1082.0 75.0
加速度・速度応答スペクトル
図1 加速度・速度応答スペクトル

阪神大震災で観測された神戸海洋気象台の記録は、最大加速度818ガル、最大速度 91カイン。 軟弱地盤の神戸ポートアイランドの加速度は341ガルで、速度は 91カインもあります。 ノースリッジ地震におけるオリーブビュー病院1階の記録は最大速度112カインです。

その速度応答スペクトル(図1,h=5%)をみると免震建物の周期領域2から4秒において応答速度 150から200カインの強さを有しています。

3.地震応答性能

図2は各階の最大応答加速度を示しています。白印はこの建物が在来耐震構造で充分な水平耐力を有していると仮定した場合の応答です。 在来構造では 1,000ガル以上に増幅される加速度が、200から300ガル程度に抑制されています。

図3は、免震装置に発生する最大変形量です。オリーブビュー病院の記録(V=112カイン)で40cm、神戸ポートアイランドの記録(V=91カイン) では46cmの変形が発生します。 しかし、この建物の免震装置の許容変形量は60cmに設計されていますので、これらの入力に対してはまだ充分な余裕を残しています。

最大応答加速度
図2 最大応答加速度
装置の最大変形量
図3 装置の最大変形量

4.まとめ

本検討で対象としたVmax=100カインレベルの地震動に対して、この免震建物は充分安全であると言えます。しかし、免震建物の安全性能も、設計次第で当然建物毎に異なったものとなります。

構造物の設計において、将来どのくらい強い地震動に遭遇するのかは誰も判りませんし、またいかなる構造物といえども、無制限にどこまでも安全ということはありえません。

免震構造の特徴と本質をよく理解し、現実の設計条件の中で、創造の才を総動員して精一杯の努力をすることが設計者の務めではないでしょうか。

※本記事は「建築技術 1996年8月号」に掲載された内容です。