免震建物の地震時性能3
-免震建物はどこまで安全に設計できるか-
地震動の強さは、構造物の位置する場所やその地盤条件によって大きく異なります。しかし、将来の地震動予測は計画地を特定してもかなり困難であり、また免震建物の安全性も設計次第であることは前回述べたとおりです。
免震建物は、現実の設計条件の中でどの程度まで安全性能を高められるのでしょうか。今回はダイナミックデザインの実際の設計例の中からその答えを模索してみましょう。
1.建物概要
対象建物は、都内世田谷区に建設中の「明大前マンション」。木造建築の密集する地域を免震構造によって災害に強い街づくりに再開発するもので、世田谷区の「優良建築物等整備事業」に認定されています。 RC造(一部 SRC造)、10階建て、延床面積約 6,000m2の分譲マンションで、1階には店舗、建物内に30台分の機械式立体駐車場を内蔵しています。
2.構造計画概要
図1は構造体骨組の計画図です。2階以上の住棟は中央部吹き抜けをはさんで2棟に分かれています。2階~1階にかけてのV字柱により24本の柱を8箇所に集約し、建物の総重量12,000トンを8体の免震装置に支持させています。
免震装置は、この建物用に設計した直径1.3mの特製鉛プラグ入り積層ゴム(LRB) を採用しており、装置1体当たりの支持重量は約1500トン、許容水平変形量は80cmに設計されています。
3.設計用入力地震動
設計用入力地震動は、最大速度Vmax=100cm/sに基準化した既往の地震動と最近の地震で観測された Vmax=100cm/s前後の記録地震動等(表1)としています。 その速度応答スペクトルは、周期2~4秒の領域において150~250(cm/s)の強さを有しています。これは、超高層ビルで慣用されている設計地震動の2倍の強さ、入力エネルギーでは4倍の地震動に相当します。
入力地震動名 | 最大応答加速度 (cm/s2) | 最大速度 (cm/s) |
---|---|---|
EL CENTRO NS (1940) | 1021.6 | 100.0 |
TAFT EW (1952) | 993.6 | 100.0 |
HACHINOHE NS (1968) | 660.2 | 100.0 |
HACHINOHE EW (1968) | 510.8 | 100.0 |
AW-2 (模擬地震動) | 664.8 | 100.0 |
KOBE-JMA NS (1995) | 818.0 | 90.9 |
OLIVE VIEW NS (1994) | 782.0 | 112.1 |
BCJ-L2S (サイト地表波) | 469.3 | 78.7 |
4.大地震時の安全性能
図2は各階の最大応答加速度、図3は最大応答変位を示しています。最大応答加速度は、1000ガルの入力に対しても100~150ガルに収まり、家具類の転倒の恐れもありません。 エレベータをはじめ設備機器類も健全に守られ、建物全体の無被害・無損傷を達成できます。
免震装置の最大変形は許容変形量に対して充分な余裕を残しており、もっと強い地震動に対しても安全性が確保されていると言えます。
5.まとめ
この建物は、免震構造の中でも特に高い安全性能を達成している例です。阪神大震災の発生以前に行われた設計コンペで免震構造の提案が採用され、着工までに2年間をかけて設計がまとめられました。 免震構造の性能を徹底して高めることによって、経済的にも大変有利な設計となっています。建築主の耐震安全性を重要と考える基本思想と設計者の積極的提案がうまく融合した成功例と言えるでしょう。
私達は、世紀オーダーの使用に耐える安全で快適な免震建物を実現するために、優れた免震構造の設計を追求したいと考えています。
※本記事は「建築技術 1996年9月号」に掲載された内容です。