既存建物をどう救うか
○=△=×=1/3。
阪神大震災におけるJR三宮近辺の新耐震以前の建物 773棟の被害率です。 ○:無被害+軽微=34%、△:中破+小破=38%、×:倒壊+大破=29%と報告されています。 地震動の強さを考慮すると良い成績と言えるかもしれませんが、死者 1/3という戦闘は凄惨きわまりないものです。同地域での新耐震の討ち死(倒壊+大破)は約10%です。
全国には同程度の割合で討ち死組が存在すると思われます。平成 7年12月に「建築物の耐震改修の促進に関する法律」が施行され、既存建物の耐震性向上が全国的に求められるようになりました。
1.耐震改修の基本思想
この法律は、現行の耐震基準に適合しない既存建物を新耐震と同等のレベルに引き上げること、即ち厳しい地震動に対して建物の倒壊を防止することを目的としています。
しかし、新耐震を満足すれば耐震問題は解消というわけではありません。今までに述べたとおり、現行耐震設計法は、家具や設備などの収容物の安全確保や建物の機能維持・資産保全まではカバーできません。
2.免震レトロフィットの現状
耐震性能の劣る既存建物を免震構造により改修する免震レトロフィットは、米国の独壇場です。世界第一号の適用例となったソルトレーク市郡庁舎(写真1)はあまりにも有名ですが、文化財的価値の高い歴史的建造物の改修には特にピッタリの方法です。 カリフォリニア州ではOakland, San Francisco, Los Angelsと各都市のシンボルである市庁舎が続々とレトロフィットされています。(写真2から4)
わが国でも今年になって免震レトロフィットの適用例が出てきました。老朽化した建物を免震レトロフィットで現役に復活させ、優れた建築文化を再生・保存したいものです。
3.制震レトロフィットの現状
制震構造による耐震改修もスタートは免震レトロフィットと同時ですが、米国では89年ロマプリータ(LP)地震の後、日本では95年阪神大震災の後ごく最近になって実施例が見られるようになりました。
米国の適用例では、1976年に建設されLP地震の後93年に VEMダンパーを組み込んで減衰性能を高めた"Santa Clara County Building"(写真5)が有名です。
国内では制震壁を用いた富士火災銀座ビルなどの事例があります。
4.耐震改修技術の展望
従来の耐震改修では、剛性と強度を高めるために応答加速度まで高くなってしまいます。地震応答までも引き上げる耐力アップが総合的な観点で本当に耐震性能の改善になっているかは慎重に検討すべきです。
鉄骨造や高層ビルなど比較的剛性が低く変形性能の大きい建物には、減衰性能を高める制震レトロフィットが適しており、その適用例は今後着実に増加していくでしょう。
免震レトロフィットは、収容物を含めた総合的な性能改善に極めて効果的な方法です。但し、これまでの方法では大がかりな工事となるため資産価値の高い構造物にしか適用し難い面があります。
構造物の大半を占める一般の中低層建物の耐震性能改善には、比較的簡便且つ経済的で、応答抑制効果の大きい方法が望まれます。ダイナミックデザインは、その要請に応えられる技術を有しており、また新たな技術開発にも取り組んでいます。
※本記事は「建築技術 1997年2月号」に掲載された内容です。