免震講座 13
免震・制震構造の役割
-構造物と都市建設の方向性-

1.神戸を破壊したエネルギー

阪神大震災は2000万トンの廃棄物を生み出しました。いくつかの強震記録を基に構造物に投入されたエネルギーを等価速度換算で VE=300~400cm/sと想定すると、水量で215トンから382トン、即ち 25mプール1杯の水を沸騰させるエネルギーであれだけの被害がでたことになります。

戦後半世紀をかけて営々と築いてきた神戸の街が、僅か 5秒か10秒の間にプール1杯のお湯でガラクタになってしまったことをどう考えるべきでしょうか。

2.都市と構造物は社会資産である

都市は私達の人生を演じる舞台であり、先輩から受け継ぎ後輩に伝えてゆくべき共有資産です。都市を構成する個々の構造物も大切な社会資産であり、その建設と維持保全・建て替えは連綿と続く多くの世代に対する責任を負った行為です。

2千年以上の歴史を有するわが国でありながら、明治以降過去百年の近代建築の遺産は2百年の歴史しかない米国に遥かに及ばず、また私達の住生活は、数世紀以上の建築ストックを背景とするヨーロッパに較ぶべくもありません。 喧伝されているわが国の経済力と現実の住生活との大きな矛盾を、私達はどう納得すればよいのでしょうか。

3.免震構造による建築ストックの蓄積を

日本が地震国であるが故にこれまで建築物をストックできなかったとすれば、その問題は既に免震構造によって解消可能になっていると言わねばなりません。 厳しい地震動の実態をよく認識し、世紀オーダーの歴史認識と資源・エネルギーや地球環境に対する視点をもって免震構造物の設計・建設に取り組めば、地震国日本にも大地震の再来期間を超えて豊かな都市空間を築くことが可能です。 近視眼的な目先の金儲けから、より高い倫理的視点にプロジェクト推進のモティベーションを高めたいものです。

2千年以上の歴史を有するわが国でありながら、明治以降過去百年の近代建築の遺産は2百年の歴史しかない米国に遥かに及ばず、また私達の住生活は、数世紀以上の建築ストックを背景とするヨーロッパに較ぶべくもありません。 喧伝されているわが国の経済力と現実の住生活との大きな矛盾を、私達はどう納得すればよいのでしょうか。

4.21世紀の生活空間の課題

科学技術の発達と経済的繁栄、戦争や飢え、各種の災害や病原菌との戦い、激動の20世紀がまもなく幕を降ろし、いよいよ21世紀が開幕します。

これまでの経済性第一主義の時代から、21世紀はより高い精神性が重視される時代になるという予測があります。私達ダイナミックデザインは、単なるシェルターとしての構造物の建設というレベルに留まらず、多くの人々のより高い自己実現を支援できる高次元の生活空間・都市空間の建設に貢献したいと希っています。

これからの都市空間は、清浄な空気と水、静寂と心地よい自然音、恵み豊かな陽光と緑に溢れた自然の楽園に戻るべきです。私達が目指すべきは、排気ガスをまき散らしてお金を追いかけることではなく、自然の摂理を学び、自然環境の秩序と調和しながらより高い自己実現に励むことではないでしょうか。

※本記事は「建築技術 1997年3月号」に掲載された内容です。